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リンゴと小食と癇癪と

 私の父方は九州の一族なのだが、この父の女きょうだいたちには、肥満体型は全然見られない。これはノンビリ肉付きをよくするには、性格があまりにもカンシャク持ちすぎるからだろう。私がまだ5つか6つの頃、走っている車の中で祖母とおばとが口ゲンカを始め、祖母が激昂のあまり、私の眼前で、イキナリ走行中の車のドアを開けて道路の真ん中に飛び降りようとしたことがあった。私は怖くて口もきけなかったが、たしかに、こういう煮えたぎった血を持っていれば、脂肪も即座に分解されて、エネルギーとして消費されてしまうに違いない。
 私は九州系の体型はうまく受け継いだが、幼い時の恐怖体験からか、カンシャクは身につけ損ねた。そこで、あの手この手で体型を管理しようと骨を折ってきたのだが、とりわけやせたい願望が強い高校生の時、思い切って決行したのが「リンゴだけダイエット」だった。これは読んで字のまま、リンゴだけを食べて他のものを食べず、やせてやろうというものである。この決心を母に話すと、てっきり大反対されると思ったのに、たちどころに賛成して、「お母さんもしようかな~」などと言い出したのには、いささか拍子抜けだった。
 ―私に「リンゴだけダイエット」が完遂できたのは、せいぜい2食までだった。母の目は確かだったわけだ。
 しかし私はあきらめず、次は平均的に食べる量を減らしていって、「胃を小さくしてダイエット」をものにしようと試みた。胃が小さくなれば、食べたくても食べられず、したがってやせる、という思いつきである。これはしばらくの間とてもうまくいった。毎食ママゴトのような量で箸を置き、体重をはかっては大満足していたが、ある日のこと、親戚の何回忌かの法事に出席した時、思わぬカベにぶつかった。
 一日くらい食べ過ぎても安心なくらいの体重になれたのに、目の前にとりどりの法事のゴチソウが並んでいるのに、たった握りズシ3つで、もうどうにもこうにも胃に入らず、それ以上何も食べることができなかったのだ。エビフライも、カラアゲも、お刺身も・・・すべて、目をサラのようにして見つめるのみである。それは実に、筆舌にも尽くしがたい無念さだった。―当然、「胃を小さくしてダイエット」は、その日・その時点をもって、オシマイを告げた。
 ―こう見ていくと、もっとも苦労なく、もっとも効果的なダイエットは、やはり、わが九州の女性一族の持ち伝える、常に炎のように燃えさかる気性・たちまちカッとなる激情と好戦性・脂肪も糖分も焼き尽くす熱い血、による「カンシャク・ダイエット」なのかと思われる。・・・ただ、友人をなくす恐れがあるので、実行にはややタメライを感じるのだが。
 

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