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大阪・大受験記

 今を去ること1×年、私は大阪大学法学部を受験するという、「一期一会」とも言うべき機会に恵まれた。
 そのスタートはすばらしく順風満帆だった。徳島を父の車で発って、瀬戸内海をフェリーで渡り(当時は橋はまだかかっていなかった)、神戸で高速に乗って、最初のドライブ・インで休憩中、父がその夜泊まるホテルを予約していない、ということが発覚したのである。
「大阪やもん。泊まるとこぐらい、何ぼでもあるやろ~」
 地下鉄はおろか、最寄の駅までバイクで10分かかり、市内までの電車がまた1時間に1本しかないという田舎人間の感覚では、それはそうとも思われた。が、受験日は明日なのである―「車中泊」で受験の朝を迎える、という最悪の展開を避けたいと思うのは、きっとどの受験生も同じに違いない。が、ここまで来てしまった以上、大阪に着いたら真っ先にホテルを探すことを父に確約させることが、その時点で出来る精一杯であった。
 ―大阪到着後、4,5軒に門前払いを食った後で、幸いにも、十三(地名である)のビジネスホテルに部屋を取ることができた。
 その晩、試験前の緊張と「お父さんとツインルームかいな」というので浮かない顔をしていた私に、父は、意気揚々と提案した。
「さっ、今から道頓堀行こ。『蟹道楽』のカニ見に行こ
 ・・・初めて見る広大な地下鉄の駅。ズラリと並んだ券売機の列、行きかう人の波、四通八達した地下通路。10代の田舎娘の目には、さながらNASA本部内のような景観に映った。そこを自在に行きかう父の姿を少々見直したのはよかったが、道頓堀に来てみると、『蟹道楽』はもちろん、周辺の店も、灯りを消して軒並み閉店しているではないか。その日は平日だったのだが、徳島では、平日に店が休むというのはありえない―みんなと同じく、日曜に休むのだ。関西では、しかし、火・水・木などに閉店するのが普通である―父も私も、そんなこととは露知らなかった。
 ―最寄の『55○』の2階で天津飯を食べて、我々はホテルに戻った。
 ところで、ビジネスホテルだから、朝食は出ない。明日の朝食をどうするかというのが、父と私の間で問題になった。父はこともなげにこう言うのだった。
「ほれ、隣に、スナックがあったな。あそこの人に作ってもらお」
 スナックで朝ごはんが食べられるのか!いくら田舎者であれ、私はそう思わずにいられなかったし、第一恥をかくのがイヤだった。そこで強硬に反対したのだが、父は強引にスナックに乗り込んで、―スナックの方でもたまたま経営的に苦しかったのか―話をつけてしまったのだった。しかも、朝食のみならず、お弁当のサンドイッチまで作らせてしまったのである。今でも、その時の、何か腑に落ちないようなホステスさん2人の表情を覚えている。―その日、大阪大を受験した受験生は何百人といただろうが、スナックで朝食を食べてきた受験生は、私1人だけだったに違いない。
 現在振り返ってみても、私にはどうしても、あれが「受験」のための旅行だったとは思えないのである。

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